静かな夜に、お茶を飲むだけの時間

よりそいノート

夜が深くなると、
部屋の音が少しずつ減っていく。

テレビの音も、外の車の音も、
いつの間にか遠くなって、
聞こえるのは時計の針の音だけ。

そんな時間に、
湯気の立つお茶を淹れる。

特別なことは何もない。
誰かに褒められるような一日でもない。
「今日もよくやった」と胸を張れるほどでもない。

それでも、
あたたかい湯のみを両手で包むと、
少しだけ心がゆるむ。


「……今日も静かな夜だね」

小雪が、小さくつぶやいた。

「うん。こういう夜、けっこう好き」

小春はそう言って、
ふーっとお茶の湯気に息をかける。

「何か頑張らなくてもいい夜、って感じ」


一日を振り返ると、
やれなかったことの方が目につく。

あれもできなかった。
これも後回しにした。
結局、何も進まなかった気がする。

でも、今はもう夜。

今日の評価を下す時間じゃなくて、
ただ“終わった一日”をそっとしまう時間。

「今日はさ、
お茶を飲めただけで十分じゃない?」

小春が、ゆっくり言った。

「うん……それだけでも、ちゃんと過ごしたよね」

小雪は、湯のみを見つめながらうなずく。


何かを成し遂げなくても、
前に進めなくても、
誰かの役に立てなくても。

静かな夜に、
あたたかいお茶を飲めたなら、
それはそれで、ちゃんとした時間。

「今日も、おつかれさま」

そう言ってくれる人がいなくても、
自分で自分に、そっと言ってあげればいい。


夜は、がんばらないためにある。

反省するためでも、
自分を責めるためでもなくて。

ただ、静かに呼吸して、
一日を終えるための時間。

湯気が消える頃には、
心のざわざわも少し薄れている。

「また明日ね」

小春と小雪は、
そう言ってお茶を飲み干した。

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