頑張っているのに報われない夜

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「なんだか疲れちゃったな」

小雪はソファに座ったまま、ぽつりとつぶやいた。

窓の外はもう暗い。

今日も一日終わったはずなのに、心の中だけがまだ働き続けているようだった。

「おつかれさま」

小春は温かいハーブティーの入ったマグカップをテーブルに置いた。

ふわりと優しい香りが広がる。

「ありがとう」

小雪は両手でマグカップを包み込んだ。

その温かさが少しだけ心にしみる。

「何かあったの?」

小春が隣に座る。

小雪は少し考えてから言った。

「私ね、最近ずっと頑張ってるつもりなんだ」

「うん」

「仕事もちゃんとやってるし、嫌なことがあっても我慢してるし、自分なりに努力してる」

「うん」

「でも全然報われてる気がしない」

その言葉を口にした瞬間、胸の奥に溜まっていたものが少しだけ外に出た気がした。

「報われない、か」

小春は静かに繰り返した。

「周りを見るとね」

小雪は続ける。

「昇進した人がいるし、夢を叶えた人もいるし、楽しそうな人もたくさんいる」

「うん」

「なのに私は何も変わってない気がする」

小春はしばらく黙っていた。

否定も肯定もせず、ただ話を聞いてくれている。

その静かな時間が心地よかった。

「小雪」

「なに?」

「今日の朝ごはん覚えてる?」

「え?」

突然の質問に小雪は目をぱちぱちさせた。

「朝ごはん?」

「そう」

「トーストとヨーグルトだったけど」

「それを食べたあと、お昼までお腹空かなかったでしょ?」

「うん」

「じゃあちゃんと栄養になってたんだね」

小雪は首をかしげる。

「まあ、そうだけど」

「努力も少し似てると思うんだ」

小春はそう言った。

「どういうこと?」

「栄養って食べた瞬間に体が変わるわけじゃないでしょ」

「うん」

「でも見えないところでちゃんと使われてる」

小雪は黙って聞いていた。

「努力も同じでね」

小春は優しく続ける。

「結果が見えない時期でも、ちゃんと自分の中に積み重なっていることがあるんだと思う」

窓の外では街灯が静かに光っている。

小雪はマグカップから立ち上る湯気を見つめた。

「でもさ」

「うん」

「本当に積み重なってるのかな」

「そう思えない?」

「うん」

小春は少し笑った。

「じゃあ聞くけど」

「なに?」

「一年前の小雪と今の小雪、全く同じ?」

小雪は考えた。

「いや…」

「うん」

「たぶん違う」

「どこが?」

「前より落ち込んでも立ち直るのが少し早くなったかも」

「うん」

「あと、人に相談するのも少しだけ上手になった」

「うん」

「それに前より失敗を引きずらなくなった気がする」

言葉にしてみると、意外とたくさん出てきた。

小春はにっこり笑う。

「ちゃんと成長してるじゃない」

小雪は少し照れくさくなった。

「そうなのかな」

「そうだよ」

小春は頷く。

「私たちは結果だけを見がちだけど、本当はそこに至るまでにたくさんの変化があるんだよ」

しばらく沈黙が流れた。

心の中の焦りが少しずつほどけていく。

「ねえ小春」

「なに?」

「種ってさ」

「うん」

「土の中にいる時は何も変わってないように見えるよね」

小春は嬉しそうに笑った。

「そうだね」

「でも本当は根を伸ばしてるんだよね」

「うん」

「見えないところで」

小雪はそう言って少し笑った。

「私も今は土の中なのかも」

「かもしれないね」

小春は優しく答えた。

「じゃあ焦らなくてもいい?」

「もちろん」

「周りと比べなくても?」

「もちろん」

「ちゃんと進んでる?」

「もちろん」

その言葉に、小雪は小さく息を吐いた。

長い間背負っていた荷物を少し下ろしたような気持ちだった。

報われないように見える日もある。

何も変わっていないように感じる日もある。

でも本当は、

見えないところで育っているものがあるのかもしれない。

今日の努力。

今日の我慢。

今日の挑戦。

そのすべてが、未来の自分の根になっているのかもしれない。

「ありがとう、小春」

「どういたしまして」

「なんだか少し楽になった」

「それならよかった」

温かいハーブティーを飲み干す。

窓の外の夜は相変わらず静かだった。

けれど心の中には、少しだけ優しい灯りがともっている気がした。

結果が見えない夜もある。

報われないように感じる夜もある。

それでも、

今日頑張ったことにはちゃんと意味がある。

そんなことを思いながら、

小雪は静かに微笑んだ。

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