昔の失敗を思い出した夜

よりそいノート

「うわぁ……」

夜。

布団に入った瞬間だった。

小雪は思わず枕に顔を埋めた。

部屋は静か。

時計の秒針だけが小さく響いている。

なのに頭の中は全然静かじゃない。

「なんで今さら思い出すの……」

数年前の出来事だった。

職場の飲み会。

みんなの前で言った冗談。

あの時は笑って終わったはずなのに、

なぜか急に思い出した。

そして思い出した瞬間、

顔が熱くなる。

「絶対変な人だと思われた……」

「恥ずかしい……」

「消えたい……」

小雪は毛布を頭まで引き上げた。

すると、

コンコン。

部屋のドアがノックされた。

「起きてる?」

小春だった。

「起きてる……」

「どうしたの?」

小春は部屋に入ると、

小雪の様子を見て首をかしげた。

「また何か思い出した顔してる」

「なんで分かるの」

「長い付き合いだから」

小春はくすりと笑った。

小雪はため息をつく。

「昔の失敗思い出した」

「ああ」

小春は納得したように頷いた。

「よくあるやつだね」

「全然よくないよ」

小雪は毛布の中から顔だけ出した。

「もう何年も前なのに」

「うん」

「急に思い出して」

「うん」

「今さら恥ずかしくなってる」

「うん」

小春は静かに聞いている。

「ねえ」

小雪が言った。

「なんで昔の失敗って急に出てくるんだろう」

小春は少し考えた。

「たぶんね」

「うん」

「脳が暇だから」

「え?」

思わず小雪は起き上がる。

「それだけ?」

「わりとそれだけ」

小春は笑った。

「昼間は仕事とか家事とかで忙しいでしょ」

「うん」

「でも夜になると静かになる」

「うん」

「すると脳が過去のフォルダを勝手に開く」

「迷惑すぎる」

「本当にね」

二人は少し笑った。

小雪は天井を見上げた。

「でもさ」

「うん」

「思い出すってことは」

「うん」

「やっぱり私が悪かったってことじゃない?」

小春は首を横に振った。

「そうとは限らないよ」

「え?」

「むしろ逆かもしれない」

小雪は不思議そうな顔をする。

小春は続けた。

「本当に反省してない人って」

「うん」

「そんなに何年も覚えてないと思う」

その言葉に、

小雪は少し黙った。

確かにそうかもしれない。

自分が気にしているのは、

誰かを傷つけたかったからではない。

嫌な人だったからでもない。

失敗したくなかったから。

ちゃんとしたかったから。

だから今でも思い出してしまう。

「それにね」

小春が言った。

「その時の周りの人」

「うん」

「案外覚えてないと思うよ」

「そんなものかな」

「そんなもの」

小春は即答した。

「小雪だって」

「うん」

「五年前に誰かが言った失言とか覚えてる?」

「……覚えてない」

「でしょ」

小雪は少し笑った。

言われてみればそうだった。

自分だけが覚えていて、

自分だけが恥ずかしがっている。

そんなことは意外と多いのかもしれない。

窓の外を見る。

夜の街は静かだった。

過去は変えられない。

失敗も消えない。

でも、

何年も前の自分を責め続ける必要はないのかもしれない。

あの頃の自分なりに、

一生懸命だったはずだから。

「ねえ、小春」

「なに?」

「私」

少しだけ笑う。

「そんなに悪い人じゃなかったよね」

小春も笑った。

「うん」

「たぶん失敗しただけ」

「うん」

「それだけ」

その言葉を聞いて、

小雪は少し肩の力が抜けた気がした。

昔の失敗は、

思い出してもいい。

反省してもいい。

でも、

ずっと自分を罰し続けなくていい。

そんなことを思いながら、

小雪はもう一度布団にもぐりこんだ。

今夜は少しだけ、

穏やかに眠れそうな気がした。

コメント

タイトルとURLをコピーしました