返信が来ない夜のハーブティー

よりそいノート

夜だった。

小雪はスマホの画面を見つめていた。

数時間前に送ったメッセージ。

既読はついている。

でも、返信はまだ来ていない。

小雪はスマホを置いた。

そして数分後、

また手に取った。

変わらない画面。

返信はない。

「うーん……」

小さくため息をつく。

本当は分かっている。

相手だって忙しい。

仕事かもしれない。

家事かもしれない。

ただスマホを見ていないだけかもしれない。

それなのに、

頭の中では別の声が聞こえてくる。

「変なこと言ったかな」

「気を悪くさせたかな」

「嫌われたのかな」

考え始めると止まらない。

返信が来ない理由を、

次から次へと想像してしまう。

その時だった。

「どうしたの?」

小春が部屋に入ってきた。

手には湯気の立つマグカップ。

ふわりと優しい香りが広がる。

「ハーブティー?」

「うん」

小春はマグカップを小雪の前に置いた。

「なんか難しい顔してるから」

小雪は苦笑いした。

「返信が来なくて」

「ああ」

小春はすぐに察したようだった。

「既読?」

「うん」

「なるほど」

小雪はスマホを見せた。

「数時間前なんだけど」

「うん」

「なんか不安になってきちゃって」

小春はゆっくり椅子に座る。

そして静かに聞いた。

「何が不安なの?」

「嫌われたのかなって」

「本当に?」

小春は首をかしげた。

「え?」

「嫌われた証拠はある?」

小雪は言葉に詰まった。

証拠。

そう言われると何もない。

返信が来ていない。

ただそれだけだ。

「でも……」

「うん」

「返信が来ないし」

「それは事実だね」

小春は頷く。

「でも『嫌われた』は想像だよ」

その言葉に、

小雪は少し黙った。

確かにそうだった。

返信がないのは事実。

でも、

嫌われたかどうかは分からない。

いつの間にか、

自分の不安が作った答えを、

本当のことみたいに思っていた。

小春はハーブティーをひと口飲んだ。

「人ってね」

「うん」

「不安になると、一番怖い理由を選びやすいんだって」

「そうなんだ」

「本当は他にもたくさん理由があるのにね」

仕事中かもしれない。

疲れて寝ているかもしれない。

返信を考えている途中かもしれない。

後で返そうと思っているのかもしれない。

でも、

不安な時ほど、

なぜか一番悪い想像を信じてしまう。

小雪はマグカップを手に取った。

温かさが指先に伝わる。

少しだけ肩の力が抜けた。

「私さ」

「うん」

「返信が来ないだけで、勝手に物語作ってたかも」

小春は笑った。

「あるあるだね」

「しかもだいたい悲しい方向に」

「それもあるある」

二人は少し笑った。

窓の外を見る。

夜の街は静かだった。

返信はまだ来ていない。

でも、

今すぐ答えを出さなくてもいい気がした。

相手の気持ちは、

相手にしか分からない。

だから、

自分の不安だけで結論を決めなくてもいい。

「ねえ、小春」

「なに?」

「今夜は待つだけにしてみる」

小春は優しく頷いた。

「それがいいと思う」

小雪はスマホを伏せた。

そしてハーブティーをひと口飲む。

爽やかな香りが心を落ち着かせてくれる。

返信がないことと、

嫌われたことは違う。

そんな当たり前のことを、

少しだけ思い出せた夜だった。

窓の外では、

静かな月が優しく光っていた。

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